身体の部分を詠むー乳房(1/6)
乳房は、哺乳類のメスが具える外性器の一つ。大和言葉(和語)で「ち」「ちち」「おちち」「ちぶさ」などと呼ばれる。「ち; 乳」は『万葉集』にも見られる古語。(辞典による)
ひとなしし胸のちぶさをほむらにてやくすみ染の衣着よきみ
*としのぶ(仮名・或る人)が流されたときに、流人は黒服の装束をして、下向すると聞て、母の許よりその衣などを調えて遣るのに、その衣に結び付けてあった、(としのぶの母の歌)
なんとも凄まじい内容の歌。藤原道信は二十三歳で夭折したが、多くの哀傷歌を詠んだ。
百草(ももくさ)にやそくさ添へてたまひてし乳房のむくい今日ぞ我がする
*「百石に八十石を添えてお乳を与えて下さった母上の乳房への恩に、今私は報いることだ。」 行基が母の報恩会に詠んだとして伝わる。
あはれみし乳房のことも忘れけり我悲しみの苦のみおぼえて
聞書集・西行
*上句は、母親のことも忘れてしまった、ということらしい。それほど自分の悲しみが苦しかったのだ。
乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅(くれなゐ)ぞ濃き
フリジャのあはれに白き花ゆゑに乳ばしる乳房さすりたるかも
尾山篤二郎
息あらくせまりて強ふるわれの眼は胸にもりあがる乳を見にけり
筏井嘉一
元村のまばらな家のあひまの径(みち)乳房あらはに女とほれり