身体の部分を詠むー乳房(2/6)
夏のくぢらぬくしとさやりゐたるときわが乳(ち)痛めるふかしぎありぬ
葛原妙子
*作者の「料理歌集」にでてくる歌。文字通りに解釈してよさそうだ。
弟に奪はれまいと母の乳房ふたつ持ちしとき自我は生れき
春日井 建
もゆる限りはひとに与えへし乳房なれ癌の組成を何時よりと知らず
失ひしわれの乳房に似し丘あり冬は枯れたる花が飾らむ
無き筈の乳房いたむとかなしめる夜々もあやめはふくらみやまず
*以上の三首は、歌集「乳房喪失」から。
乳房その他に溺れてわれら在(あ)る夜をすなはち立ちてねむれり馬は
胸乳など重たきもののたゆたいに翔(た)たざれば領す空のまぼろし
馬場あき子
*作者の言葉: 「自分自身がすでにもう「身のもえて走らんこともなくて経ぬ」というような立場にきてしまったことへの忸怩とした思いなどが歌われている。私は四十五歳になっていた。