身体の部分を詠むー乳房(3/6)
よるべなき悲哀のごとく薄明に体温を放ちもり上がる乳房
岡部桂一郎
*横に寝ている女性の乳房を薄明に見つめて詠ったのだろう。
垂老に桃いろの乳房ふふまする農のおみなの一生のまこと
山田あき
*垂老: 七十歳に近い老人のこと。
ブラウスの中まで明るき初夏の陽にけぶれるごときわが乳房あり
今刈りし朝草のやうな匂ひして寄り来しときに乳房とがりゐき
阿保らしくかなしいことなり形よき左の乳房を切ることになる
わたしよりわたしの乳房をかなしみてかなしみゐる人が二階を歩く
触れいたる夢の乳房よなまなまと一日わが掌はわがものならず