天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー乳房(3/6)

  よるべなき悲哀のごとく薄明に体温を放ちもり上がる乳房

                      岡部桂一郎

*横に寝ている女性の乳房を薄明に見つめて詠ったのだろう。

 

  垂老に桃いろの乳房ふふまする農のおみなの一生のまこと

                       山田あき

*垂老: 七十歳に近い老人のこと。

 

  ブラウスの中まで明るき初夏の陽にけぶれるごときわが乳房あり

                       河野裕子

  今刈りし朝草のやうな匂ひして寄り来しときに乳房とがりゐき

                       河野裕子

  阿保らしくかなしいことなり形よき左の乳房を切ることになる

                       河野裕子

  わたしよりわたしの乳房をかなしみてかなしみゐる人が二階を歩く

                       河野裕子

  触れいたる夢の乳房よなまなまと一日わが掌はわがものならず

                       永田和宏

*周知のように、河野裕子永田和宏とは夫婦であった。(河野裕子は2010年に乳癌で死去)

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ブラウス