天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

温故知新(1/9)

  [注]元文は、「短歌人」2010年10月号に掲載されたものである。

     短歌習得の基本的な手法なので、再録しておく。なお挿入した

     参考画像は、WEBから引いたもの。元文にはない。

 

 小池光の短歌作品を温故知新という観点から分析してみたい。「古」の代表として、斎藤茂吉塚本邦雄を取りあげ、小池光が切り開いた「新」境地である「知の詩情」を明らかにしたい。現代の短歌革新になっている。

 読者を立ち止まらせ考えさせて、笑い・ユーモアを誘い、あるいは納得させ妙に感動させる批評精神にみちた歌および作りかたが「知の詩情」である。ユーモアに批評精神が入って生れるウィットが中心になる。技法上は、次のような点に顕著な特徴が現れる。

・助詞助動詞の使い方 ・副詞の思いがけない使い方 ・表記の工夫 ・先人の流儀の摂取(本歌取、パロディ含む) ・とり合せ ・効果的な倒置法 ・視点の取り方(切り取り方) ・言葉の位置 ・固有名詞(特に人名)に現れる知識 等。

 斎藤茂吉からは、動詞・副詞・助詞・助動詞の使い方、表現の微妙な捻れ・ずれなどの工夫などを学んだ。が一方、茂吉の歌には、実に自覚されていない(理性によって処理されていない、反省されていない)感想が詠み込まれている、これが嫌悪感をさそう、と分析、批評精神が欠如していた点を指摘している。ここに小池は、茂吉の短歌にないものをうち出す明確な方向性を得た。

塚本邦雄との共通点をあげると、題材が豊富であり視野が広い。古典、西洋文学、美術、音楽、哲学、小説、映画・演劇などから固有名詞をふんだんに取り上げる。さらに漢字への関心と表記の工夫、本歌取り・パロディなどがある。塚本邦雄の歌は知識(例えば、聖書)を前提として読みを要求する。この知識がなければ韻律には惹かれるが理解不能になる。小池光の場合は、塚本ほど難解でなくそれなりに楽しめる。ここに小池の歌の特質が現れる。

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齋藤茂吉

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塚本邦雄