温故知新(3/9)
第三の技法は、感嘆詞、形容動詞、名詞としての「あはれ」。茂吉の場合、全歌集での平均使用頻度は1.9%、最も頻度の高い歌集は、『赤光』と『つゆじも』の3.7%である。
小池も盛んに「あはれ」を使う。歌集別に使用頻度を調べてみると、高いところは、『廃駅』2.6%、『草の庭』2.5%。今までの全七歌集で平均すれば、1.7%になる。茂吉の場合と違い、批評の効いた知の詩情の措辞として機能している小池の「あはれ」の例を次に二首あげる。現代的「あはれ」の使い方である。
あはれあはれその縮小図セルビアといふ「大国」の軛(くびき) を断つと
『草の庭』
ベニヤ板に描(か)かれしペンキの虹として戦後民主主義ふりにしあはれ
『静物』
第四の技法は、漢字の読み方。茂吉の歌では『つきかげ』から例をあげよう。
われ病んで仰向にをれば現身(げんしん)の菊池寛君も突如としてほとけ
くろぐろとしげれる杉のしたかげにいまだも清き未通女(みつうぢよ)のこゑ
C
小池は、この茂吉の「漢字の音読」の効果をよく心得て、極端にまで推し進める。
つんつんと黒松苗木ゆれゆれつせまる雨脚(うきやく)におどろきながら
『静物』
穿鼻男(せんびを)と穿耳女(せんじめ)とあひたづさへて浅草観音の階段のぼる
C『時のめぐりに』
茂吉でも小池でもCの例のように、漢字にすることで象形文字による生々しさが現れる。