天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

温故知新(4/9)

 次に、前衛歌人塚本邦雄から継承した技について見ていこう。

第一の技法は、「・・少女」「・・男」などの造語である。数多い塚本の歌から二首を。

  氷上の錐揉少女(きりもみをとめ)霧(きら)ひつつ縫合のあと見ゆるたましひ

                           『星餐図』

  絶えて蝙蝠傘修繕人(かうもりなほし)見ざるを月明にひらと翔ちけり紅衣の男 

                            『豹変』

もともとは、『古事記歌謡』の海人馳使(あまはせづかひ)、あたら清(すが)し女(め)、白檮原嬢子(かしはらをとめ)、『梁塵秘抄』の好色漢(すきをとこ)、桂男(かつらをとこ)、『閑吟集』の海士乙女(あまをとめ)など古典歌謡や『万葉集』の香少女(にほえをとめ)、海未通女(あまをとめ)、月読壮士(つくよみをとこ)、すがる娘子(をとめ)などの例から、塚本が発展させた造語である。

小池の例では、前の「穿鼻男」「穿耳女」に加えて、以下に「つなわたりびと」「蜂蜜採り男」の二首を示す。

  見上げては犬類(けんるい)ワンと吼える間をつなわたりびと進みつつあり

                             『静物

  おもひいづる二十年(はたとせ)むかし春に来し髯うつくしき蜂蜜(みつ)採り男

                             『廃駅』

なお斎藤茂吉には、次のような先例がある。

  ともし火のもとに出で來てにほえ少女(をとめ)が剣(けん)を舞(ま)ひたる

  そのあはれさよ                    『連山』

これは、万葉集に倣ったもの。

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小池光歌集『廃駅』