天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

旅を詠む(1/6)

 旅に抱く感情は、時代によって変遷している。古典和歌の時代は、旅を苦しいものと感じる傾向が一般的であり、人生と重ねてみることも多い。時代が進んで、物見遊山の余裕が出てくると悲壮感は薄まってくる。旅の語源には、「たどる日」「他日(たび)」「外日(とび)」「外辺(たび)」「飛(とび)」「発日(たつび)」「他火(たび)」「給(たべ)」のほか数多くの説がある。(語源由来辞典から)

 

  引(ひく)馬野(まの)ににほふ榛原(はりはら)入り乱り衣にほはせ旅のしるしに

                    万葉集・長 奥麿

*「引馬野に美しく色づいている榛原に分け入って衣を染めなさい、旅のしるしに。」

引馬野: 豊川市御津町御馬(おんま)一帯。

榛原: 落葉高木ハンノキの生えている原。

 

  宇治(うぢ)間山(まやま)朝風寒し旅にして衣貸すべき妹もあらなくに

                     万葉集長屋王

宇治間山: 奈良県吉野郡吉野町の山。

 

  家にあれば笥(け)に盛る飯(いひ)を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る

                    万葉集・有馬皇子

  家にあらば妹が手まかむ草枕旅に臥(こや)せるこの旅人(たびと)あはれ

                    万葉集・聖徳皇子

  けさきなきいまだ旅なるほととぎす花たちばなに宿はからなむ

                   古今集・読人しらず

*「 今朝、やって来て鳴いたほととぎすよ。まだ旅を続けているのなら、橘の花に宿を頼んでください。」

 

  唐衣きつつなれにし妻しあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

                    古今集在原業平

  このたびはぬさもとりあへずたむけ山紅葉の錦神のまにまに

                    古今集菅原道真

*「今回の旅は幣の用意もできませんでした。手向山の色とりどりの紅葉の葉を幣として差しあげますので、神のお心にしたがってお受け取りください。」

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引馬野