天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

旅を詠む(5/6)

  つまりつらい旅の終りだ 西日さす部屋にほのかに浮ぶ夕椅子

                      大辻隆弘

  白波が脳(なづき)の芯にとびかかるしびれるやうな旅のさびしさ

                      日高尭子

  ほんとうの自分をさがす旅に出るにせの自分もいとしき四月

                      有沢 蛍

  珊瑚の彩にこころ染まれる旅の夜は青きさかなとなりて眠らむ

                     片平阿佐子

  旅を来て愛(いと)しきものに出逢ひたり落葉の下を行く忘れ水

                     荒木富美子

*忘れ水: 野中の茂みの中などで人の目につかず忘れられたように流れる水。(辞典から)

 

  この旅の苞(つと)にと妻は海の藍ひとつ掬(すく)へど指の間を落つ

                      田中成彦

*苞: その土地の産物。旅のみやげ。  海の藍とは海水のこと。

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珊瑚