つまりつらい旅の終りだ 西日さす部屋にほのかに浮ぶ夕椅子
大辻隆弘
白波が脳(なづき)の芯にとびかかるしびれるやうな旅のさびしさ
日高尭子
ほんとうの自分をさがす旅に出るにせの自分もいとしき四月
有沢 蛍
珊瑚の彩にこころ染まれる旅の夜は青きさかなとなりて眠らむ
片平阿佐子
旅を来て愛(いと)しきものに出逢ひたり落葉の下を行く忘れ水
荒木富美子
*忘れ水: 野中の茂みの中などで人の目につかず忘れられたように流れる水。(辞典から)
この旅の苞(つと)にと妻は海の藍ひとつ掬(すく)へど指の間を落つ
田中成彦
*苞: その土地の産物。旅のみやげ。 海の藍とは海水のこと。