祖父、祖母を詠む(3/6)
金沢の「天狗舞」と呼ぶ酒に父の父へと血を手繰り寄す
中川佐和子
*天狗舞: 1823年(文政6年)の創業。銘柄の由来は、蔵が深い森に囲まれ、木々の葉のすれあう音が天狗の舞う音に聞こえたとの伝説から「天狗舞」の名が生まれる。(WEBから)
祖父の本ひらけば薔薇の花びら 逝きし後のほのか息づき
高橋みずほ
母に打たるる幼き我を抱へ逃げし祖母も賢きにはあらざりき
乳(ちち)足らぬ母に生れて祖母の作る糊に育ちき乏しおろかし
祖母が口くろくよごれて言ふきけば炭とり出でてうまからずとぞ
片山貞美
多く無頼に過ぎたる祖父にうけ継ぎし何の徳にか面ざしやせて
醍醐志万子
嫁して祖母七十五年ひともとの樹にたとふれば両手にあまる
時田則雄
名号を唱へ逝きたる祖母のこゑ終のなみだも透きとほりゐき
時田則雄
*名号(みょうごう): 仏陀や菩薩の称号をさしていう。浄土真宗では,「南無阿弥陀仏」の6文字を阿弥陀如来の名号とする。