渡辺白泉『俳句の音韻』
「沼津高等学校論叢第一集」から要点を紹介する。例句は全て芭蕉の作品。
五七五は、さらに細かく分節することができる。そしてその分節のしかたによって、或いは緩慢・静止的な律調が生まれ、或いは軽快・流動的な律調が生まれる。
緩慢な律調を生み出す分節法としては、大体次の二種類が考えられる。(中七が34である点が共通)
(一)32・34・32
雲の峯いくつ崩れて月の山
雲雀より上に休らふ峠かな
(二)23・34・32
うき我をさびしがらせよ閑古鳥
唐崎の松は花より朧にて
閑さや岩にしみ入る蝉の声
この秋は何で年よる雲に鳥
これらの作品は、ゆったりと読み味わえば味わうほど、作者の心が如実に感じられてくるものであり、云いかえれば、ゆっくり(・・・・)読み味わうように構成されているのである。
流動的な律動感を生みだすものとしては、大体次のような型が考えられる。(中七が43である点が共通)
(三)23・43・23
奈良七重七堂伽藍八重桜
年暮れぬ笠着て草鞋はきながら
月早し梢は雨を持ちながら
蛤の二見に別れ行く秋ぞ
(四)32・43・23
子どもらよ昼顔咲きぬ瓜むかん
年の市線香買ひに出でばやな
(五)23・43・32
五月雨をあつめて早し最上川
ほろほろと山吹散るか滝の音
これらの作品には、いずれも動きが含まれている。