天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

兄、弟を詠む(1/8)

 兄とは、親を同じくする者同士で、年上の男子。弟とは、年下の男子。「おと」は「劣る」の語幹と同源。

  うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を兄弟(いろせ)とわが見む

                    万葉集大来皇女

*うつせみの: 現世のという意味を込めて「世、命、人、身」などにかかる枕詞。いろせ: 「いろ」は同母の意を表わす語。「せ」は、兄弟、恋人、夫など親しい男性を呼ぶ称) 同腹の兄弟。大来皇女大津皇子と同母姉弟大津皇子の亡骸を、葛城の二上山に移葬し奉った時、大来皇女が詠まれた御歌。

 

  雪しづか終生めとらぬわが兄をゆめ純潔とおもはざれども

                        葛原妙子

  兄弟のなかに最も父母にやさしかりし弟も老ゆ

                        岡野弘彦

  機首のめりゆかせて兄の浮かべいし眼に既にわが這入りてゆけず

                        平井 弘

*兄は特攻兵士であったようだ。敵の戦艦に向かって突撃する際の兄の顔を想像しているようだ。

 

  もう少しも酔わなくなりし眼の中を堕ちゆくとまだ兄の機影は

                        平井 弘

  かまきりにまたがる夢もみるらむか兄といへども小さき寝顔

                        綾部 剛

  堀りやりし小さき穴にゐざりゆきてひれ伏すごとく糞たるる兄よ

                        竹山 広

*ゐざる: 膝行る。坐ったままひざをすべらせて移動する。

 

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二上山