天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

兄、弟を詠む(4/8)

  収入の変らぬ兄より渡されし帰省費用を置きて帰りぬ

                       江坂美知子

  かすかにも狂ひて過ぎき、戦死せし兄にもらひし紺の天體圖

                       前 登志夫

  弟のかなしみなればひたすらに海に来にけりきさらぎの海

                       前 登志夫

  うつつなく虚空に眼凝らす兄オシログラフは生を告げゐて

                        中原兼彦

オシログラフ: 電気信号の波形を観測する装置、測定器(オシロスコープ)。

 

  出でゆくと飯いそぎ食ふ弟を見れば立ち入りてもの言はざりき

                        五味保義

  バイカルの歌は身に沁むとらはれて死にし弟聞きにけむ歌

                       窪田章一郎

*バイカルの歌: ロシア民謡バイカル湖のほとり」であろうか。一番の歌詞は「豊かなる ザバイカルの はてしなき 野山を やつれし 旅人が あてもなく さまよう」。

 

  生きて還れと何故(なぜ)いはざりし生きて還ると弟もいはぬ別れしにけり

                       窪田章一郎

 

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天體圖