天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

兄、弟を詠む(6/8)

  牛乳にて顔を洗うおとうとは部下をふやしつづけおり

                       高瀬一誌

牛乳石鹸があるように、牛乳は洗顔によい。余分な皮脂や古い角質を落として肌の再生を促す。この歌の弟は、石鹸メーカに勤めているのだろうか。

[追伸]いわゆる市販の牛乳石鹸には、牛乳は含まれていない、という。誤解する人が

   多く笑い話になるようだ。斎藤寛さんのmixiで指摘頂いた。

 

  胸びれのはつか重たき秋の日や橋の上にて逢はな おとうと

                       水原紫苑

*この歌での胸びれとは、女性の乳房のあたりの比喩であろうか。

 

  ちち撃ちて来し掌か洗いつつしずかに昏れてゆきしおとうと

                      川田由布

*初二句は、父親を平手打したことを指すのだろう。

 

  一枝の櫻見せむと鉄格子へだてて逢ひしはおとうとなりき

                      辺見じゅん

空豆のくぼみのやうな姉として疲労(つかれ)のふかき弟おもふ

                       日高尭子

*「空豆のくぼみのやうな」という直喩は、ふくよかな体形を想像させる。

 

  草ぐさにはらからなきか婚ちかきおとうとすずなわれはすずしろ

                       上村典子

*すずな(カブ)、すずしろ(ダイコン)は春の七草に入る。

 

  「麗しき災厄」とわれに弟の紹介をする兄よ微笑よ

                      黒瀬珂攔瀾

  病み多き痩躯の吾が挟めるはかの屈強な弟の骨

                       中井慶子

 

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