兄、弟を詠む(7/8)
ひくき墓石へからまる蔦よふゆがきても麦畑にゐます弟テオと
日置俊次
十六歳の弟の悩みの遠因としてわれはあり夏雲の階
澤村斉美
じふいちよ十一よと啼く慈悲心鳥亡きおとうとは修一(しういち)にてそろ
山埜井喜美枝
*慈悲心鳥: 「じゅういち」と呼ばれるカッコウ科の鳥。全長約32センチ。日本では夏鳥で、他の鳥の巣に托卵する。
硝子器にあぢさゐの茎青く透(す)き唐突に亡兄(あに)の声よみがへる
真鍋美恵子
温室の硝子が闇に溶けてゆくかかるとき不意に顕(た)ちくる亡兄(あに)は
真鍋美恵子
戦地にて食す物なく逝きし兄今初物を供へ申さむ
猿渡文子
兄弟は他人のもとと言ひいでし人を寂しむ事に触れては
大岡 博