兄、弟を詠む(8/8)
兄弟は仲よくあそび空に揚げし凧に喧嘩をさせているなり
浜田康敬
いさかひの声よりさびし弟と姉の口笛とほくに揃ふ
花山多佳子
*いさかひ: 「いひさきあひ(言ひ裂き合ひ)」。言ってお互いを、お互いの立場を、裂き(破り)合うこと。口喧嘩をすること。
たすけ合ふ余力すら無きはらからを思ひてながき年月を経ぬ
*はらから: 同腹の(=母を同じくする)兄弟姉妹。「はら」は腹、「から」は「うから」「やから」の「から」で、血縁関係を意味するという。(古語辞典より)
以下には小池光さんの最近の秀作「弟」(「短歌研究」2021年3月号30首)の初段十一首の中から五首を紹介する。
電話のこゑむしろあかるく弟は「癌になりました」激震襲ふ
ぐいのみに手奮ひにつつ酒つぎてくれたることが今生の別れ
進行の詳細を知り尽くすゆゑ一切拒否して死に向かひたり
入院を拒否し抗癌剤を拒否し自宅ベッドのうへにいのち終ふ
なきがらの弟の額に手を当てつ息のむまでのそのつめたさよ