天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

男を詠む(1/4)

 「おとこ」の語源は、「おつこ(小之子)。古事記日本書紀では「ヲトコ」にいくつかの漢字を当てている。別の呼び方には、「をのこ」「ますらを」「ますらたけを」「やまとをぐな」など、古典に豊富である。ちなみに「ますらを」に当てた漢字には、大夫、丈夫、益荒男、健男 などがある。

  嘆きつつますらをのこの恋ふれこそわが結ふ髪の漬(ひ)ぢてぬれけれ

                     万葉集舎人娘子

*「思わず嘆きながら「ますらを」たるものが恋してくださるからこそ、私の髪の結い糸も濡れて解けるのですね。」

 

  大夫の得物矢(さつや)手挿(たばさ)み立ち向ひ射る円方(まどかた)は見るに清潔(さや)けし

                     万葉集舎人娘子

  大夫や片恋ひせむと嘆けども鬼(しこ)の大夫なほ恋ひにけり

                     万葉集・舎人皇

*「立派な男子ならば片恋などしないと自分の身を嘆くのだが、ふがいない男子の僕はなおも恋しく思うのです。」

 

  ますらをの鞆(とも)の音すなりもののふの大臣(おほまへつきみ)楯立つらしも

                     万葉集元明天皇

*「勇士たちの鞆を弓の弦がはじく音が聞こえてくるよ。物部の大臣が楯を立てているよ。」

 

  千万(ちよろづ)の軍(いくさ)なりとも言(こと)挙(あ)げせず取りて来ぬべき男(をのこ)とぞ思ふ

                    万葉集高橋虫麻呂

*「一千万の軍勢であろうととやかく言わずに黙って打ち平らげてくる男だと思っている。」

 

ますらをの行くとふ道ぞおほろかに思ひて行くなますらをの伴

                     万葉集聖武天皇

*おほろかに: おろそかに。

 

  士(をのこ)やも空しかるべき万代(よろづよ)に語り継ぐべき名は立てずして

                     万葉集山上憶良

*「男子たるもの、いつの代までも人々が代々語り継ぐのにふさわしい名を立てずに空しくこの世を終わっていいのだろうか。」

 

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得物矢(さつや)