天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

男を詠む(2/4)

  唐(から)国(こく)に行き足(たら)はして帰り来むますら建(たけ)男(を)に御酒(みき)たてまつる

                    万葉集・多治比鷹主

  大夫もかく恋ひけるを手弱女(たわやめ)の恋ふる情(こころ)に比(たぐ)ひあらめやも

                     万葉集坂上大嬢

*「丈夫の貴方でさえ私にこんなに恋しているのに、手弱女の私が貴方を恋する心に比べるものがあるだろうか。」

 

  大夫の靫(ゆき)取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻

                     万葉集大伴家持

  ますらをがつまぎにあけびさしそへて暮るればかへる大原の里

                       山家集西行

*つまぎ: 《爪先で折りとった木の意》薪にするための小枝。たきぎ。

あけび: 東アジアが原産のアケビアケビ属の植物。秋になると実を結ぶ。

 

  赤裸(まはだか)の男の子むれゐて鉱(あらがね)のまろがり砕く鎚うち揮(ふ)りて

                         橘 曙覧

*まろがり: 固まり。

 

  男をも灰の中より拾ひつる釘のたぐひに思ひなすこと

                        与謝野晶子

  赤茶けし帽子ひとつに悲しみをあつめしごときさびしき男

                         前田夕暮

 

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