天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー母(2/2)

      見送る(二)   八首

  うつろへる視線の前に顔出して話しかくればわが子と識りぬ

  皺多くシミ浮き出でし母の手を擦りつつ妻は話しかけゐつ

  「また来るね」と声をかくれば探すごと視線泳がせはつか頷く

  死化粧に見苦しくなき母の顔柩にあれば心やすらぐ

  ひつそりと妻は手彫りの観音を母の柩の隅に納めぬ

  焼却のスイッチ押せば轟と鳴る炎の音にをののく吾は

  妻と吾と箸もてはさむ一片の足のあたりの母の白骨

  「この骨が喉仏です」と手の平にのせて小さき第二頸椎

 

  広島の山里に嫁ぎ三人の男の子育てし母京女

  東京に単身赴任の父なれば母の不満は我に向ひき

  盆暮に帰郷するのみその夜の母の涙に父を憎めり

  歳時記と国語辞典と便箋と癌病棟の母に手渡す

  月一回父亡きあとの寂しさの母を伴ふ「木語」の句会

  わが短歌母の俳句を寄せ集め本を編みたり『母子草』なる

  銀行の窓口に行きとまどへる母の振り込みひきとめられし

  孫の名をかたれる声にふためきて銀行に行きし母を叱りき

 

f:id:amanokakeru:20220109065054j:plain

『母子草』