天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー妻(2/4)

      木彫(一)   五首

  御仏を彫れば長生きするかもと子宮筋腫をとりし妻はも

  子宮とりし後の背中に出でし瘤凝ると言ひつつ御仏を彫る

  角材の中の御仏彫り起こす妻の夜なべの夢明かりかな

  気品ありと仏誉むれば手を打ちて喜びをりぬ春の夕暮

  枕辺に彫りし御仏飾り置く妻の味寝(うまい)のやすらけくこそ

 

  ふたり子の巣立ちにければ鳩時計買ひたしといふ家籠る妻

 

      木彫(二)   六首

  家籠る嘆きの妻にありけるを習ひ始めし仏像彫刻

  表のみ日焼けしにけり木彫の二年たちたる小さき大黒

  左より風吹くさまに炎(ほむら)立つ不動明王まなこ瞋れる

  短きは迫力欠くとわが言へば剣長めを彫りて持たすも

  誰彼に不動明王を見せたきに嫁つれてゆく展示会場

  子の去りし学習机布かけてそつと置かれし不動明王

 

  緑濃きもののけ姫の映像に心安らぐ妻は居眠り

  上人の手よりもらひし小さき札「南無阿弥陀仏」を妻に与へぬ

  パソコンは高価な玩具そのうちに埃被ると妻は嘆くも

  御仏の蓮の台(うてな)をつるばみの妻は彫りゐる家に籠もりて

  奨励賞受けしとふ妻の電話受く梅雨の窓辺の会社の机

  人身事故のありしを知らず妻が待つ鰻食はむと鎌倉駅

  御仏を彫る妻あはれ家籠り暗き灯の下目を酷使する

  木がかをる妻の手に成る観世音菩薩立像わが枕上(まくらがみ)

 

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不動明王(妻の木彫)