わが歌集からー妻(4/4)
上野駅ホーム案内悪しければ妻をしたがへののしり走る
年々に居間に咲かせるアマリリス老いゆく妻のたのしみにして
駒形のどぢやう食ひにと婚前の妻ともなひしことも思ほゆ
墓石の重きをいとふわが妻は死後の出入りを想(おも)ひゐるらし
「晩春」とふ古き映画を見つつ酌(く)む芋焼酎は妻の買ひ置き
地震(なゐ)きたり揺れはじめたる本棚を妻とふたりで支へてゐたり
わが後に妻も起き出で観戦すテレビの前に二人ならびて
感激の涙ながせるわが顔を妻は横眼にぬすみ見るかも
カーテンをつかみて叫ぶ夢の中妻が目覚めてわれを揺さぶる
買物に里山みちを越えゆけり五十年まへ身重の妻は
三十年以上も居間の鉢にあり妻が世話する大きカボック
散歩には妻を伴ひどちらかが残りし後のこと話し合ふ
買ひ物に携帯電話をもちゆかぬ妻に怒りてひと日すぎたり
寝室に書類をやぶる音すなり妻のはじめしひとつ断捨離
ゴミ捨ては月、火、木、金わが担当家事のおほかた妻にまかせて
買ひ物に出かける朝(あした)やすやすとマスク忘れし妻を叱るも
長き間を椅子に座りて妻まてば両手にもてぬほどの買ひ物