わが歌集からー子、孫
子
練習は社宅の部屋をしめきりて子はバイオリンわれはフルート
浪人の息子も囲むすき焼きに明日入院の妻を励ます
むらさきの花を飾りて妻泣きぬ子と喧嘩せし日の夕暮に
ふたり子の巣立ちにければ鳩時計買ひたしといふ家籠る妻
子の去りし学習机布かけてそつと置かれし不動明王
歳晩の卓に並ぶる酒肴訪ひくる子等を花活けて待つ
むくつけくなりたる子らとあらたまの食を囲めり元日の午後
子の彼女胸乳豊けき人といふ連れて来たればまぶしみて見る
遠き日の子をあそばせしレンゲ田にふるさと村の虹の家建つ
今ははや医科大学の准教授この紫雲英(げんげ)田を這ひまはりし子は
孫
この先の春をかぞふるわが腕に生れしばかりのいのちかなしも
草を食む象に向かひて「ひろきくんです」自己紹介をしたり二歳児
抱き上ぐる孫の宙輝(ひろき)が桃をもぐ両手につつみ引き下げて採る
場外に手に汗にぎりはげませり深宇(みう)と宙輝(ひろき)のローラースケート
いつたんは怖れてやめし宙輝(ひろき)なれどつひになし遂ぐエアすべり台
拍手して大道芸を見し深宇(みう)に千円もたせ祝儀袋に
玄関にハイタッチして別れきぬ宙輝(ひろき)七歳の誕生会あと
コロナ禍にリモートで見るさみしさよ孫の合奏全国大会