わが歌集からー旅(1/7)
北米を飛ぶ 六首
ブロンドのスチュアデス来る衆目を集めてまぶし制服の胸
看板の朽ちし通りは留学の心癒せしリトルトウキョウ
枯野ゆく自動車道路一本のカリフォルニアは果てしなき青
赤茹のおほき鋏のロブスター、クルージングのランチ賑ふ
潮風の匂ひかすかにランウェイを夏の朝日に真向ひて飛ぶ
飛行機の降りゆく下の闇の国光の川の流れてゐたり
大台ヶ原 六首
九十九折二時間半を太陽に近づきゆけり大台ヶ原
家のこと雀の子のことかしましくしゃべりし少女バスに眠れる
我ひとり夕食につく相宿の林間学校の学習の声
夕暮れて大台ヶ原に雲湧くも大部屋にひとり飲む缶ビール
大部屋に隠れてゐたる大き蛾よわが点けし灯に鱗粉を撒く
ゴンゴンと窓に頭を打ち灯を慕ふ大台ヶ原の黒き蛾の群
伊豆大島行 六首
丸窓に海面の返す光射し人の眠れる二等船室
波頭しらしら立つる冬潮や船のゆく手にかすむは利島
船酔ひの大海原の地獄波血は凍りつつ冷汗垂るる
稜線のやさしく見ゆる三原山十年前の噴火を思ふ
雪もよひ踊り子宿の窓に見し波浮の港は寂しかりけり
一時間余して返すレンタカーくさや焼酎買ひて船待つ