わが歌集からー旅(2/7)
中禅寺湖晩春 五首
頂に雪消え残る男体を右に左に見るいろは坂
「五月なほふかきみ雪の男体」と詠める空穂の歌碑に触れゐつ
*窪田空穂の一首は、「五月なほ深きみ雪の男体の山に解けてはみずうみとなる」。
温泉(ゆ)のほてりさまさむとして窓際に湖上に暮るる釣舟を見つ
対岸の灯の消えゆきて闇深し湖やすらぎて夜を眠れる
ベルギーもフランスも持つ領事館別荘今は無人なりけり
天城路 五首
霧深き天城峠を越えゆかむかの踊子と私の路
たたなはる天城の山の旧き道つづらに折れて谷深かりき
谷深き風呂に見上げし真夜の月天城峠の空にかかれる
天霧らひ空と分かたぬ海の色沖ゆく舟の水尾白き見ゆ
北京好日 十四首
焼藷を並べて売れるドラム缶北京大街に木枯が吹く
磨り減りし故宮の庭の甃百官並びて額づきし跡
国軍の若き兵士の見回れる八達嶺の万里の長城
朝くれば黒き駝鳥のたのしみか檻掃く人につきて歩くも
モスクワとふ天井高きレストラン赤き服着し服務員ゐる
長城の起伏はげしき八達嶺演歌流れて冬日の淡し
朝なさな長剣持ちて舞ふ人を木立に見るも北京なりけり
木枯にモノロフォザウルス叫び立つ中国古動物館の裏庭
胡の歌と思へばかなし水鳥の池に聞こゆる中国演歌
名を彫るはサービスといふ印を買ふ妻には丸き吾には四角き
土産には石の印鑑買ひにけり妻には丸き吾には四角き
羊肉のしゃぶしゃぶ食ひて白酒呑む木枯すさぶ北京の休日