天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー旅(4/7)

      奈良の旅   五首

  山椒とたらの芽添へて香り立つ鯛のあら煮に酌む吟醸酒

  旅先の奈良の宵闇やるせなし一万円をパチンコに擦る

  手の指の欠けてかなしき阿修羅像春のあしたに顔あかく立つ

  春雨に松の落ち葉のあからめる庭を通りてゆく戒壇

  時の塵かぶりて白き四天王、日光、月光、奈良の御仏

 

      白秋の三崎(一)   八首

  城ヶ島大橋の下に隠れたり椿の御所の慈母観世音

  異人館前の岩礁(いくり)もなくなりて三崎漁連の白きビル立つ

  梅雨明けて日差しまぶしき遊ヶ崎石碑の磯にパラソル開く

  北条の潮入川の源の水を思ひて佇(た)ちつくしたり

  白秋が遊女想ひて泣きにける八景原(はつけいばら)の夕茜かな

  三崎漁連向ヶ崎の対岸は夏を惜しめるビーチパラソル

  二町谷海外(ふたまちやかいと)の浜に水遊び孫見守りて煙草ふかせり

  漣痕(れんこん)の岩礁(いくり)に群るるかもめ鳥晩夏の風にはばたきて啼く

 

      白秋の三崎(二)   八首

  家猫か野良か見分かぬ猫がくるマグロ料理の店先の道

  係留のヨット静けき諸磯の艇庫の裏に大根干せり

  荒くれをあまたなだめし遊郭の跡に残れる潮入の川

  白秋が移り住みにし異人館跡形もなくひよろ松二本

  そのかみの椿の御所は幼稚園 午後は女性コーラス聞こゆ

  朝東北風(あさならひ)夕南風(ゆふみなみ)吹く通り矢に白き帆張りし

  烏賊(いか)漁の船

  白秋が来て涙せし供養塔遊女身投げの断崖に立つ

  青首の三浦大根洗はれて並べられたりむらむらとすも

 

      八景原   五首

  白秋が裸の海女を見て詠みし歌ほがらかに西崎の磯

  なだらかな八景原の端に立つ身投げの場所のこの供養塔

  逃れ来し八景原の下に待つ波が削りし磯の針山

  身投げせし遊女の墓と並びたり牛頭観音馬頭観音

  白秋と夕暮が来て酒飲みし八景原に大根育つ

 

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城ヶ島大橋