天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー旅(5/7)

      古都に遊ぶ   八首

  紋様の定かならざる曼陀羅も国宝なれば尊びて見る

  当麻寺(たいまでら)浄土の庭に口づさむ大津皇子の雲隠(くもがく)りの歌

*雲隠(くもがく)りの歌とは、次の有名な歌。

「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟背とわが見む」

  大伯皇女

 

  松明の火の粉を待ちて見上ぐれば若草山に淡き月出づ

  二月堂下にひしめく人影に松明振りて火の粉散らせり

  月出づる若草山の麓にて火の粉あぶるを幸せとせり

  天平の堂宇の中に立ち尽くす死者の色濃き十二神将

  申年(さるどし)の守護神なれば蝋燭を点し手合はす安底羅(アンチラ)大将

  みぞれ降る嵯峨野の春にゆきくれてしましを憩ふ湯豆腐の店

 

      賀茂の春   六首

  霧雨にけぶる河原の草もえて桜並木は花の賀茂川

  上賀茂の馬場の白砂雨にぬれあかく枝垂るる斎王桜

  うすあかき花咲く杜にまつられて別雷大神(わけいかづちのおほかみ)ゐます

  楢の木の森を流るる川なればならの小川と呼ばれたりけり

  婚礼の人らみちびき巫女きたる神社の庭に花の雨降る

  車曳く牛の臭ひに香まじり御簾の陰なる衣擦の音

 

      箕面に遊ぶ   五首

  功なりし英世が母と来しところ箕面の山の温泉に入る

  湯上りの身を横たへる湯の宿の窓より見たる朝焼けの空

  迂回とは知らず踏み込む桜谷山越えくれば猿と行き逢ふ

  試験管右手にかざす銅像箕面の山の中腹に立つ

  リハビリに往復すらし老人がのめるがに行く川沿ひの道

 

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当麻寺