わが歌集からー旅(6/7)
越後紀行 八首
深緑は谷底までもなだれたり千眼堂の赤き吊橋
大杉の梢さしくる夏の日を背に受けのぼる国上(くがみ)の山に
万葉のしらべにのりて破綻なき八一のうたに心やすらぐ
晩年の八一のすまひ見てあれば良寛和尚の書も掛かりたり
立ちならぶ柳の木々は夏なればおどろおどろし汗噴きやまぬ
佐渡行きの船はゆるゆる向きを変ふ台風一過のにごれる河口
信濃川にごれる水の早ければ白き鴎は流されにけり
在来線駅のベンチの女生徒の白き素足の見えてかなしき
常陸にあそぶ 八首
上野駅ホーム案内悪しければ妻をしたがへののしり走る
間に合ひて特急「ひたち」にのりこめば行き先違ふ車両なりけり
竹林のこの景色なり毎週のテレビドラマの幕開に見る
光圀が米をつくりしご前田の名残りにあそぶセグロセキレイ
湯に入れば花の木立にひよどりの黒き影見ゆ二羽ゐるらしも
麦酒一本熱燗一合呑みて酔ふ五浦の宿に熟睡したり
海荒れて怒涛の寄するさまを見き崖なかほどの六角堂に
秩父のおほかみ 八首
鉄剣に刻める文字を読み解くに十年を経し最新科学
狼の痕跡は無し馬具、埴輪発掘されし古墳の中に
火祭りの幟ながめてバスを待つさきたま古墳公園前に
おほかみがそのかみ棲みし武甲山お花畑のまなかひに見ゆ
花火かとふり返り見る武甲山発破の音に岩くづれ落つ
おほかみが今なほ棲むと人の言ふ秩父の奥の三峰の山