わが歌集からー鳥類(2/15)
鳩 33首
電線にとまれる鳩の三百羽餌くるる人の家を見てゐつ
季節無き性欲と思ふ境内に鳩の交尾を見る年の暮
青首をふるひ立ててぞ交尾する神社の鳩の神がかりなる
コーランの祈り響かふ熱き国泥のモスクに鳩棲みつけり
わが足に寄りくる白き伝書鳩梅雨に濡れたる脚のくれなゐ
痛めたる片足庇ひ背をかがめ交尾許せる雌鳩あはれ
雨に濡るる鳩の羽毛の汚きを憎みてをりぬ寺の軒下
駅に棲む鳩は恐れず乗客の足混み合へるタイルを歩む
足あげてホームの鳩を子が脅す脚痛めたる鳩は動かず
刀剣の上を歩ける鳩の足朝の光に赤く透きたり
湯河原や駅のホームの屋根裏の鳩が見つむる赤き座布団
夕去りてわが帰り来し玄関の脇に鳩見るガス給湯器
細き身に幼さ残る青首の鳩はきよときよとあたり見回す
暑き夜を開けて寝ねたる玄関のドアに止まりて鳩眠るらし
麺麭屑を喉につまらす鳩もゐて昼騒がしきベンチのめぐり
撒かれたる菓子をめぐりて争へる鳩を怖れてをさな児が泣く
白鳩と土鳩交はる境内に散りてかなしき白鳩の羽根
戦場の記憶うすれて錆つけり軍犬軍馬鳩の慰霊碑
青年のこぶしに鳩の像あれば翼に鴉二羽きてとまる
海水を飲みに飛来すアオバトを待ちてかまへる望遠レンズ
一日を釣りに過ごせる老人の群を見に来る川原鳩の群
嘴に付きし飯粒気になれば土鳩は赤き足に払へり
騒がしき朝の通勤時間過ぎ駅舎の屋根に交尾する鳩
嘴に付きし飯粒気になれば土鳩は赤き足に払へり
海水を好む緑鳩も近付けず海荒れて礁(いくり)隠す白波
海水を浴びて保養の照ケ崎青鳩きたり海水を飲む
橋桁に鳩棲みつきて雛孵(かへ)るかなしき声を恐れざらめや
青鳩の飛来を待てる照ケ崎西の海より霧の寄せくる
満潮のしぶきが洗ふ礁にはしばしだにゐず青鳩の群
白鳩の腹這ふ庭の蓮池に巣ごもれるごと白き花咲く
混みあへる駅のホームに竦み鳴く羽根未熟なる幼き鳩は
足元に鳩の寄り来て見上げたり何もやらねば隣へうつる
バス停のベンチに散れる鳩の糞すき間みつけて尻を下ろしぬ