天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー魚類(1/7)

魚   56首

  湿原のウルム氷期を生きのびし北山椒魚姿をさなき

  野に座る老人の手の小魚をもらひてうれし朱鷺のをさな子

  西日射す魚屋店先ぴゅうぴゅうと皿の浅蜊は水とばしゐつ

  ひそやかに水面揺らせしかはうそは海に潜りて魚をくはへ来

  魚食ひて腹満ちたりしかはうそは岸の海草ベッドに眠る

  鱈漁を終へて海面に撒く雑魚を待ちて集へり白かつを鳥

  冷水のインクブルーの池に棲むオショロコマとふ魚の眼差し

  売らるるを知らずきらめく熱帯魚東京タワーの一階に棲む

  棘魚のムサシトミヨは湧水の元荒川にほそほそと棲む

  朝焼けの沼に輝く受精卵北山椒魚の産みしサファイア

  まぶた無き魚はかなしも夜来れば赤き珊瑚をくはへて眠る

  子育ての針魚の雄や口中の子等を吐き出す湧水の川

  釣り餌のさそひに耐へし魚たちの空気吸ふ音夜の川の面

  朝遅き呑屋の戸口閉ざされて仕入れの魚の箱置かれたり

  釣り餌のさそひに耐へし魚たちの空気吸ふ音夜の川の面

  水槽のガラスに指を触れにつつ老婆の愛づる熱帯の魚

  水無くも半年間を生くるとふ肺魚は四つの鰭に腹這ふ

  メキシコの鍾乳洞の暗がりに目無し魚棲むうすき桃色

  小魚を待ちてアユカケ石と化す水草生ふる湧き水の川

  深海魚釣らむと夜のコモロ沖魚浮きくるを舟とめて待つ

  ユメナマコ富士の裾野のなだれ込む駿河トラフに棲む深海魚

  水槽のアカウミガメに不服あり魚の切り身にそむきて眠る

  魚は森に付くとふ教へ忘れたる伐採の島魚の獲れざる

  下半身魚なる馬にまたがりて剣振り上ぐ船の女神は

  空中に水を飛ばして餌を取る芸に飽きたる鉄砲魚たち

  光無き鍾乳洞の水底に肌のま白き目のなき魚棲む

  北限とふ鬼谷川(おんだにがは)に棲み継げり黒紫の大山椒魚

  葭の茎掴みてありくヨシゴイの忍者歩きに魚は気付かず

  春分の日の北風に身をすくめ魚くるを待つ浜の白鷺

  身をかがめ波に浸りて魚を狙ふ黒き鵜の二羽待てど獲らざり

  息継ぎの音高鳴れりアマゾンの川面に朱き古代魚の肌

  薄暗き水族館の水槽の底に沈める魚のまなざし

  春くればカメツリ家族現れて魚獲りはじむ山間の川

  わだつみの鱗(いろくづ)の群に慕はるる「呑龍」といふ重爆撃機

  ミシシッピアカミミガメに荒らされて小魚棲まぬ里山の池

  奥深き三河の海に棲む海鵜魚飲み込みておもおもと翔つ

  潮風にゆだねて宙に浮くシギはたまゆら海に落ちて魚捕る

  いさなとり相模の海の波抜けて海鵜飛び立つ次々に翔(た)つ

  篝火(かがりび)の炎ふくらむ時に見ゆ魚吐き出す鵜(う)の長き首

  何魚か半身失ひただよへる波打ち際に時雨はきたり

  逝く夏の浜の鴉ら争ひて砂にまみれし死魚をついばむ 

  いくたびもとび込む池に翡翠は小魚一尾とれず去りけり

  烏きて浜辺の死魚をついばめば黒き嘴(くちばし)濡(ぬ)れて光れり

  小魚のあまたおよげる北條の入江なつかし遊郭の跡

  近づきて見れども見えず小魚は川の浅瀬の宙にはねたり

  白鷺のごとく佇み目をこらす川の浅瀬にくる小魚に

  竿先のしなり大きく巻き上ぐる釣糸待てば小魚光る

  稚魚むれて黒きかたまり湧く水の口に見えたる柿田川なり

  大き魚呑みこみぬらん青鷺のおもく川面を飛びたちにけり

  江ノ電が近づく気配地魚の干物つくれる腰越通り

  くり返しうてど魚のかからざる投網あきらめ煙草とり出す

  水よどむ川に垂れたる釣糸にかかる魚はあはれなりけり          

  魚屋の仕事はつらい夏くさく冬はつめたい魚の血だらけ

  さかな屋を逃げ出し母を困らせる 母といつしよに働きたいと 

  正座して手を摺り合はせ鯨魚(いさな)獲り祈るがごとく唄ふ祝歌(ほぎうた)

  青ざかな認知症にも効くといふわが好物の焼き鯖の寿司  

 

f:id:amanokakeru:20220215065248j:plain

鉄砲魚

 

[参考]句集には引用していないが、いくつか参考までにwebから画像を

引いておいた。