わが歌集からー魚類(4/7)
鯖 5首
魚座とふビルの二階の窓に見ゆ鰤・鯖の群一匹の鱏(えひ)
白秋が三崎揚場(あげば)に聞きし声ひとよひとひと鯖を数ふる
みち潮にのりて寄せ来る秋鯖を釣りては裂けり島の岩場に
青ざかな認知症にも効くといふわが好物の焼き鯖の寿司
泥鰌 5首
泥鰌捕る踏み網漁の川筋を探して今日も日の暮るるまで
枯蓮の池の底掻く白鷺の足にとび出づあはれ泥鰌は
水底に脚差し入れてまさぐれる鷺のまなかひ泥鰌飛び出づ
駒形のどぢやう食ひにと婚前の妻ともなひしことも思ほゆ
ヨシノボリ、ホトケドジョウの棲むといふ湧き水の谷カケスが騒ぐ
鮪 5首
正月の釣り宿に食ぶ釣れざりし鰺のたたきと鮪の刺身
鮪一本数百萬を釣り上ぐと大間の海に若者帰る
家猫か野良か見分かぬ猫がくるマグロ料理の店先の道
午前の部釣大会が終はりたり「やまかけ鮪丼」を食ふ
かんぺきな養殖なりしクロマグロ三十二年の月日を経たり
河豚 4首
水槽のガラスに鼻を押しつけて所在なかりしさざなみ河豚は
水槽のガラスに沿ひて我を見る目の縁赤き草河豚の子は
青白きヘッドライトの潜航艇名を体したる箱河豚がくる
並べたる竿一本をあげたれば小さき河豚が釣糸に垂る
鯵 4首
久方の光の浜に購ひし鰺の干物と烏賊の塩辛
正月の釣り宿に食ぶ釣れざりし鰺のたたきと鮪の刺身
リボンなす背鰭胸鰭美しきイトヒキアジの群の回遊
魚市場水槽に棲む鯛、鱸、鯵、カワハギのまなこつやめく
鯛 4首
山椒とたらの芽添へて香り立つ鯛のあら煮に酌む吟醸酒
海底にもぐりゆくらし身をそらし片手に鯛を抱ける少女
魚市場水槽に棲む鯛、鱸、鯵、カワハギのまなこつやめく
イシダヒの芸見てをれば大雨が水族館のテントを叩く