わが歌集からー魚類(5/7)
鰾(えひ) 3首
港湾に英語の指示が響かへり渚に鰾(えひ)が泳ぐ横須賀
下顎のとび出だしたる長き尾のマダラトビエイ実直なる顔
入江ありマングローブの水底を重なり進むえひの編隊
鰹 3首
釣られたる鰹ビビビビすべりゆく船の甲板淡き鮮血
幽門水、腸、胃袋を塩揉みに酒盗つくれる土佐の鰹の
裂かれたる身は火炙りのたたきかな鰹内蔵水にたゆたふ
鮭 3首
肉削げし身となりたるにひたすらに堰を跳ぶ鮭落ちてまた跳ぶ
北海の怒涛逆巻く河口には鮭の大群寄せてひしめく
ふる里の三面川をのぼる鮭居操りの網にかかりてもがく
秋刀魚 3首
流れ藻の中に人の手ゆらめきて寄りくる秋刀魚を鷲掴みせり
うつすらと肉を残せる骨添へり秋刀魚たたきを前に酒飲む
ぶつ切りのさんま、いわしを七輪に炙りて食はす春野島崎
しらす 3首
海荒るる腰越に買ふ看板のたたみいわしと釜あげしらす
千円にふた袋買ふ釜揚のしらす干したる腰越漁港
鱒 3首
あの鱒のムニエルの味妻と吾の中禅寺湖の思ひ出なりき
処女の水木曽に育ちし虹鱒の刺身に酌める「七笑」かも
年末の忍野に買ひし虹鱒の甘露煮を食ぶ小寒の朝
ボラ 3首
四万十(しまんと)の夜の水底赤目魚ボラを襲ひてその目の光る
身震ひて卵放てる赤手蟹たちまち鯔(ぼら)の稚魚群れて食む
水底に光はさせり藻を食みて身をひるがへす鯔(ぼら)のきらめき