天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー魚類(6/7)

アブラボウズ   2首

  深海魚アブラボウズはみた目には煮ても焼いても食へさうにない 

  日本一海底ふかき駿河湾アブラボウズ釣れくぢらジャンプす

 

カジキ   2首

  尾を振りて青き海面をくぐりゆくカジキの雌に鈷迫りたり

  シチリアの男の太き手の伸びてカジキに鈷をうつ地中海

 

キビナゴ   2首

  江ノ電の鉄路に向かふ店先にキビナゴ干せり腰越通り

  きららかにきびなごかかる釣糸を撓めて吹くも如月の風

 

金魚   2首

  巨(おほ)いなる蘭鋳三尾水槽に飼はれ蕩(たゆた)ふ充血の目(ま)見(み)

  山裾に掘りたる池の秋ふかみ金魚の鰭は垂れてうごかず

 

鮫   2首

  片足を鮫に食はれし海亀が片足に掻く産卵の穴

  水槽に二十八年生きたればシロチョウザメの目つきはうつろ

 

シャチ   2首

  波を切る黒き背鰭の迫りきてオタリアの仔はシャチに食はるる

  フィヨルドの入江に集ふシャチ家族鰊の群を尾鰭にたたく

 

蛸   2首

  めぐりては福徳稲荷不動堂七味横目にたこ焼を食ぶ

  ワンカップ片手につまむたこ焼を猫にも食はす夫婦なりけり

 

バス   2首

  ゆき処なき水の溜まれる湖にブラックバスが公魚(わかさぎ)を食む

  その底の郷愁深き人造湖ブラックバスの影が濃くなる

 

ラニア   2首

  金色の螺鈿の鱗きらめきて静かに群るるピラニア・ナッテリー

  グツピーもピラニアも棲む多摩川の水温上ぐる下水処理場

 

鯰   2首

  口中に稚魚を育むカワスズメ時にはナマズの子も混りたり

  少年期うなぎなまづを釣りし川丸太の橋はすでに架からず

 

ハギ   2首

  カワハギの色のうすきと濃きが二尾連れ舞ふ秋の魚座水槽

  釣られきて生簀にあるもやるせなし口尖らする皮剥の群れ

 

山女   2首

  山女釣る渓の川上ひとすぢの切れこみ深き瀧かかりたり

  清流に山女の影を追ふごとくとりとめもなし子らの行末

 

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アブラボウズ