天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(5/11)

  「置き引きに注意」の札があちこちに桜落葉の濡るる霊園

  つがのきのつぎつぎ落つる黄葉にわが照らされてベンチに坐る

  しあはせは銀杏もみぢの並木道黄の絨毯を肩寄せてゆく

  逝く年の陽を吸ひ尽くす紅葉の山みなやさし三ヶ日(みつかび)の里

  白秋が移り住みにし異人館跡形もなくひよろ松二本

  落下傘部隊のさくら散りにけり その木に懸かる「空の神兵」

  みちのくの野に一軒の蕎麦屋あり遊行柳を見るとろろそば

  錆色の泰山木の花影を見上げてすする抹茶一碗

  大杉の木立の色に馴染みたるあかがね色の山門が立つ

  朽ちてなほ姿勢くづさぬ大杉のありし日の影偲ぶ青空

  大杉のあまりに太き幹なれば大雄山はため息をつく

  黄葉の散れる水面は早川のみなもと近く水ゆたかなり

  紅葉の木立をくれば芦ノ湖の渚ささやく冬の近きを

  葉を落とし真裸にたつヒメシャラの肌あからめて木枯が吹く

  紅葉の眼に染む色に声あげてロープウェイは谷越えゆけり

  しなやかに強靱(きやうじん)なればイチローのバットにもなるコバノトネリコ

  そびえ立つ玉楠の木をかき込めりペリー艦隊随行画家は

  ロープウェイの音のみ聞こゆしんしんと杉の木立に雪ふりつめり

  千貫松なべて傾く境内にまゐられよ子宝石をさすりに

  マメ科なるコームパッシア・エクセルサ ジャックといへど登りがたしも

  垂れ下がる桜の枝に触れるなと日・中・韓・英のアナウンスあり

  枝ぶりは短く太し手弱女とふ名にふさはざる桜咲きたり

  ケータイに撮せる人らあまた寄る楊貴妃桜夜をにほへり

  郁子(むべ)の木の若葉の風に吹かれゐつ山並かすむ函南の空

  つつましき桜並木の参道の奥に鎮まる対面(たいめん)石(せき)は

  頼朝が囓りて捨てし渋柿の種は芽吹けり捻り柿といふ

  泉流泉さちよの奉納の「静の舞」に散る山桜

  酸漿(ほほづき)と秋海棠(しうかいだう)を避けて刈る日向薬師の草刈の鎌

  相撲場は立入禁止四つに組む国技の像にもみぢ映れり

  黄葉の時に差のあり境内の銀杏並木を見上げつつゆく

  満員のバスに揺らるる伊勢原の道の奥なる大山もみぢ

  鬱ふかき杉の木立にあかるめる黄葉の木のありがたきかも

  鳥さへも近づけまいにトゲトゲのシナヒイラギは朱き実をもつ

  梅林の梢つぼめる下曽我の田に坐り見る流鏑馬神事

 

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ヒメシャラ