天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(6/11)

  梅林の花まちどほし流鏑馬の土けむりたつ下曽我の野辺

  早咲きの梅めでて聞く歌謡ショウ “泣いて私の首筋かむの ”

  岩つかみ亭々と立つ樅の木の肌にふれたるわが命かな

  つぼみなす緋寒桜の幹に垂る高砲二十二聯隊の札

  中国産竹の林はあたたかき日本の春の風にさゆらぐ

  何の木と問ふ 解の札開けたれば日向水木の花かがやけり

  飛行機の通り道なり梅の枝につぎつぎかかる雲の航跡

  やはらかに柳あをみて蔭なせり予科練同期生の札かかりたる

  幣辛夷うすむらさきに咲きにけり正座に耐ふる写経の男女

  霧雨にけぶる河原の草もえて桜並木は花の賀茂川

  上賀茂の馬場の白砂雨にぬれあかく枝垂るる斎王桜

  楢の木の森を流るる川なればならの小川と呼ばれたりけり

  白々と葉裏かへしてざわめける竹群すぎて木津川わたる

  吉野山中千本の湯に浸る欅若葉の中の三日月

  青銅の裸婦像立てりみどりなす桑の葉むれの息吹をあびて

  くれなゐを蕾にかくし眠りたりニンファエア・ルブラ 夜咲きの性

  うす青き花が囲める黄の蘂のニンファエア・コロラータ 昼咲きの性

  無患子(むくろじ)の風にふかるる本堂に地蔵和讃をながめてゐたり

  幾人が梢に咲きて会ひにけむ半身不随の空挺桜

  筍を掘らずなりたる竹林の勢力ははや山の中腹

  境界の目印の木はイガンブロ赤きテープを巻きて張りゆく

  老人の記憶を当てに境界を定めつつゆく山林の藪

  虫食ひの赤松多き山林をもちてかなしむわれならなくに

  滝おちてくれなゐの橋かかりたり山を彩るもみぢかへるで

  五大堂明王院の軒先に渋柿ならむたわわに垂るる

  二時間に一本のバス待ちてをり神社あかるき銀杏の落葉

  昼となく夜となく散る大銀杏師走八日を忘れざらなむ

  ひもろぎの木々を映して鎮もれるおほき鏡を人は拝めり

  こなごなに踏みくだかれて散り敷ける椿の赤は朝に鮮(すくな)し

  開花には十日もはやき城跡の桜見上ぐる出張帰り

  時をかけ枝ひろぐればまた剪らるほんに切なき道の辺の松

  池の面に静かにたたす観世音はくもくれんの光みちたり

  山門の脇に大杉佇ちたれば参拝者皆マスクかけたり

  傾きて幹こすれあふ杉の木の悲鳴ひびかふ寺の裏山

  三分咲きしだれ桜を背に立ちて何をしゃべれる梅宮辰夫 

  南国の色おほらかに咲きにけり平戸つつじと霧島つつじ

  丈低き防風林の松林枯れ落葉踏む足裏やさしき

 

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ひもろぎ