天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(7/11)

  ふり返りふり返り去る杉木立滝音消えて高き瀬の音

  「この木何の木」問ひかけの札立ちたれど木は見当たらず

  大杉の梢さしくる夏の日を背に受けのぼる国上(くがみ)の山に

  立ちならぶ柳の木々は夏なればおどろおどろし汗噴きやまぬ

  音たてて桜もみぢの散りにけり斎庭(ゆには)に読みし今月の遺書

  三歳の子に遺言を読み聞かす祖父母のこころ楠の木が知る

  竹藪の竹と背丈をきそひたりゆらりと立てる皇帝ダリア

  藤棚の藤に若葉の萌えそめて平成十九年終らむとする

  梅林のつぼみけぶりて風さむし柱状節理を人よぢのぼる

  松の木の太き切口生々し魚つき保安林の間伐

  大いなる虚(うろ)となりたるムクノキは八百年を生き続けたり

  唐蝋梅素心蝋梅咲き初めて春はま近き谷戸の寺庭

  小田原城常盤木門を出でくれば梅もくれなゐ橋もくれなゐ

  さみしさを少しまぎらすごとく咲く寒緋桜は墓地の片隅

  潮風に吹かれふかれて痩せにけり西行法師笠懸けの松

  幹分かれ枝分かれして三百年若葉小暗きおほいなる楠

  石楠花の手入れする人おもむろになんじやもんじやの樹を教へたり

  山門を入りくる女咲き満てるつつじの花に顔の明らむ

  時くれば花はちるなり極楽寺白雲木の白き小花も

  谷戸に飛ぶ黒き揚羽をひきよせて蜜を吸はしむ赤き石楠花

  繊細にして美しき金色の美容柳の雄蕊立ちたり

  大楠の根方の洞に白々と卵積みたり朝の老婆は

  今年また会ひにきにけり極楽寺庭に咲きたる花さるすべり

  薪背負ひ本を読みゐる石像がむくげの花の陰に見えたり

  太枝はみな切り払ひあぢきなし榧(かや)の木下の古石地蔵

  このあたり入水の場所と伝へたり赤きむくげの花咲く水辺

  いまは無き太宰旧居の前に咲く太宰が愛でし百日紅

  丈ひくき竹薮原の山頂に道ありて歌碑実朝の歌

  白髪の老婆がふたりめぐり見る樹齢二千年の瘤多き楠

  宿り木のやどりし跡の瘤ならむ崖に根付ける太きタブの樹

  あたたかき甘酒すする山頂はもみぢ散り敷き年を逝かしむ

  血の色に透けるもみぢに人妻のその後思へり身ごもりしとふ

  よもぎそば甘酒を待つしまらくを池に映れるもみぢ愛でたり

  人の住む気配無き窓あまた見ゆ逗子マリーナの椰子並木道

  新学期やがて始まる校庭に楠の大樹の若葉あからむ

 

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