天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(9/11)

  朝光の及ばむとする葉の蔭にゆづるはの実の黒きむらさき

  倒れにし大き銀杏の切れ端を木霊やどると買ふ初詣

  若宮の横に立ちたる柏槇はピサの斜塔のほども傾く

  母を呼ぶ声のかぼそき北上の津波の跡にさくら咲き出づ

  大いなる津波に耐へてのこりたる一本松は根を患へり

  季(とき)くれば花を咲かせる山桜大地の震ふこの年もまた

  鬱々と里山みちをわがくれば羊歯の葉にちる山さくら花

  原子力なくてかなはぬ電力の節約の朝さくら咲き出づ

  燃え立ちてもみぢ迫れる本堂にゐますくろがね不動明王

  稜線に没日かがよふ大山の樅はひときは暗みけるかも

  南天の朱実のひかる奥に立つ不動明王 パワースポット

  如月の十日すぎても梅の枝の莟は固くくれなゐ閉す

  大杉の切り口につむ薄雪のかをりかなしき如月の朝

  看板は猿に注意と告げたれど姿見ざりき杉花粉とぶ

  相模野にさくら菜の花咲き満ちて彼岸の人をたのしませたり

  人あまた弘川寺を訪ふ時は花の季節か紅葉の季節

  梅雨に入る桜青葉の山蔭のまろき墳墓に西行を訪ふ

  移植せし銀杏大樹の切株の根方に赤き彼岸花咲く         

  道の辺にわが残れりといふごとく柘榴はちらすその朱き花

  老人の手を飛び立ちし竹トンボ屋根には行かず植木に止まる

  梅園の出店の主人この年の梅の開花の遅れを嘆く

  菜の花と河津桜の中腹に客待ち顔の出店がならぶ

  見てをれば白木蓮をさしおきて一足早く辛夷花咲く

  三月の山にふぶける杉花粉ましらの群は目を掻きむしる

  桜咲く奥津宮(おくつのみや)の力石持ち上げないで下さいとあり

  花桃も今さかりなる里山になだれて咲けるかたくりの花 

  眠りたるレオを抱き上げ帰路につく花咲く桜並木の下を

  ふらふらと歩く廊下は泥だらけシャコバサボテンの鉢を倒して    

  尋ね来し水無瀬宮址に碑を探すむぐら茂れる線路の脇に

  いつもより七日は早き満開の桜見に来し高遠城址 

  若葉なすケヤキクヌギにからまりてむらさき垂るる山藤の花 

  大木の楠の梢にくれなゐの若葉そよげり厳(いつく)しの杜

  持ち上げて年占ひし力石あまた据ゑたり樟の木の元

  「雪おんな縁(ゆかり)の地」碑の橋に立ちもみぢ燃えたつ岸を見下す

  ほむら立つ紅葉の谷を見下ろして山のぼり来し身を休めたり

 

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柘榴の木