天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー花(4/10)

  白雲の湧き立つ山のふもと辺に淡々咲ける山藤の花

  緑陰の墓場に人は憩ふらしあぢさゐの花岩煙草の花

  ベランダに海を見てゐる文学館みかんの花の甘く香れる

  ガソリンを補給して出づ国道の路肩に揺るる山百合の花

  情熱はかく冷え冷えと燃ゆるべし数限りなく咲く彼岸花

  黒々と裸木の桜立つあたり匂ひて白し水仙の花

  らくやきの仕上り見ればあはれあはれわがヒメシャラはあかあかと燃ゆ

  入水せしお吉の淵は名のみにて菜の花咲けり浅川の辺に

  樹齢約二百年とふ山茱萸(さんしゆゆ)の張り出す枝に咲く黄金花(こがねばな)

  浜風に吹かるる花が肩に触る聖観世音菩薩石像

  打ち首の首据ゑられし丘の上に神社建てたり白梅匂ふ

  「山はさけ海はあせなむ世なりとも」桜咲くなり碑の辺に

  初島の極楽鳥花群れ咲けり皆口々に夏をことほぐ

  初島のほたる袋は寂しきろ額紫陽花の下にうつむく

  阿弥陀寺に琵琶掻き鳴らす和尚ゐて今さかりなるあぢさゐの花

  「新生だ」朝(あした)逝きにし白秋に合歓の花咲く多摩の奥津城

  荒崎の断崖に咲く石蕗(つはぶき)の黄色鮮(あたら)し今日白秋忌

  風化せし石仏多き鎌倉の谷戸のなだりに咲く水仙

  吾妻山頂きに咲く菜の花をまぶしみて読む万葉の歌碑

  さびさびと白木蓮の散り初むる神社の庭の日差ぬくとき

  将軍が開陽丸に逃れ来し離宮は今し菜の花ざかり

  山人の暮らしに還る吉野山花の女神に組み伏せられて

  尊氏の屍のそばにゐてやらう 太刀に添へたる山吹の花

  落下傘部隊のさくら散りにけり その木に懸かる「空の神兵」

  玉砂利に昨夜の雨のしみ出でて散りし花びら色鮮しき

  十王堂敷居に活くる白き花一輪ありて弓引き絞る

  錆色の泰山木の花影を見上げてすする抹茶一碗

  水引の花の一筋触れにたり切株に彫る千手観音

  山百合の花を供へてほのじろき御堂にたたす聖観世音

  ひと茎に順番に咲くアマリリス三人姉妹の王女揃へり

 

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岩煙草