わが歌集からー花(10/10)
紅梅の山門入れば左手に誰姿森元使塚(たがすがたもりげんしづか)あり
吊り橋に迂回路あれど怖いものみたさに渡るつはぶきの花
身近なる花の名前も忘れはてただ美しと日々をすごせり
よろこびを白き花さく野に見れば山の桜も間なく咲くらむ
樹齢千五百年とぞウイルスに負けてはならぬうすずみ桜
満開のさくらははやも散りそむる介護老人施設をかこみ
三密を避けてさんぽは農道に沿ひつつぞゆくスカンポの花
風にくるてふの羽音か朝おきてきき耳たつるカタクリの花
わが背丈越えて咲きたり江戸の世にオランダから来し朝鮮薊(アーティチョーク)は
周辺の草木萎(しを)るる庭隅に白あでやかなアスピリンローズ
花束をためつすがめつ検査するバス停わきの生花店の朝
丈高き銀杏のもみぢと黄をきそふヒイラギナンテン空に向く花
菜の花の苗を植ゑたる一角にシート張りたり霜を恐れて
花咲けば命のちから目に見えてハクモクレンの一生(ひとよ)しのばゆ
墨入れの壺が名前の由来とぞタチツボスミレの花を凝視す
花ちれば忘れてしまふ庭園の道の辺にある細き海棠