天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー春(2/21)

平成六年 

     子の居場所蛸風船のゆくところ

     蜜蜂を連れて旅路の花野かな

     転勤の片道切符流し雛

     迎春の旗や中古車売場にも

     凧揚がる切岸白き白亜層

     梅園の光の中の昆布茶かな

     秀嶺の消えてしまひぬ青霞

     春光や高野をめぐる女人道

     帆柱のならぶ入江や春の鳶

     藁屋根に梢かかりて梅の花

     石を積む吃水深し春の波

     須恵器焼く窯がうがうと春の月

     珈琲の飲みさしふたつ春炬燵

     検察庁支部入口の桜かな

     山笑ふパラグライダーの飛びたちて

     窓拭きのゴンドラ高し春一番

     春月や火の見櫓の古りて佇つ

     春田ゆくトラクターかな土匂ふ

     春一番小学生は肩組みて

     マニキュアを見つめて春のレストラン

     換気孔春の疾風の走る声

     川宿の手水鉢にも花筏

     はくれんの散るは示寂といふべきか

     桜鯛ひれにみなぎる力かな

     花を追ふ老い連れ立ちて上野駅

     春光や天を見上ぐる亀の列

     初蝶を追ひかけてゆく野球帽

     黒猫の寝そべる上に下がり藤

     図書館の睡魔の襲ふ春灯下

     竜宮の提灯といふ蛍烏賊

     蛍烏賊ちやうちん青く点しけり

     釣られきて鰭満開や桜鯛

     黒蝶のはばたき出づる寺の門

     なにもかも忘れて摘みし蕨かな

     透きとほる姫春蝉の衣かな

     糸遊や子等の姿の遠くなる

     嵯峨野路は雨足つよき竹の秋

 

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蛸風船