天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー春(17/21)

平成二十一年 

     たたなはる山の奥まで初御空

     深き山西行庵は花の中

     菜の花やマグマ秘めたる雪の富士

     古民家の七草粥のかまどかな

     俳句詠む虚子の声する弥生かな

     梅の花十郎五郎それぞれに

     黒鳥の池に枝垂るるさくらかな

     花筏ねむれる鴨の胸に着く

     沈丁花辻ノ薬師を通りすぎ

     草萌ゆる縁よりのぞく井戸の闇

     退職を忘れ起きだす万愚節

     葺き替ふる合掌造梅の花

     客寄せは鮪どんぶり島の春

     春風や赤き漁網をつくろへる

     花匂ふ上野の山の阿修羅像

     フジツボの岩に影さす春の鳶

     白木蓮井戸の石蓋すこしずれ

     梵鐘のしづもる山の桜かな

     うぐひすや釣瓶の端に桶ふたつ

     さくら散る朱の反橋(そりはし)のあたらしき

     活魚割く腰越通り初つばめ

 

平成二十二年 

     飛び立ちて人の驚く雉子かな

     左義長の終りて波の音高し

     夢枕妻は手毬をつきてをり

     蛤が潮吐く古き新聞紙

     をさな子がおさかなと書き筆始

     目白きて河津桜のはなやげり

     チンパンジー早や春愁にしづみたる

     足湯してうぐひす笛を吹く子かな

     春節や東西南北門の内

     浚渫の泥したたれる春日かな

     わたつみの洞春潮のとどろける

     今日は晴れ明日は雨とよイヌフグリ

     るりしじみイヌノフグリにまぎれたり

     残雪やあらはになりて大文字

     昼も夜も三百年の桜かな

     長興山帰るさに買ふさくら餅

     夕桜象のウメ子のすがた無く

     初蝶の後追ひかくる鳩の朝

     魚はねて桜の影のゆらぎけり

     松原は春の潮騒御用邸

     うぐひすの啼きやむ空に鳶の影

     幾山河越えてこの町初つばめ

     初蝶や錆びし鉄路の果て見えず

     猫柳黒田清輝の湖畔なる

     椿落ち土に還るをうべなへり

 

f:id:amanokakeru:20220409063954j:plain

花筏