天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー夏(2/ 14)

平成六年 「化野」              

     濁流の吊橋渡る日傘かな

     鮎掛けてたもに引抜く早瀬かな

     青鷺の抜き足差し足潮溜り

     若宮の若葉の陰の野点かな

     吹流はためく湖の「海賊船」

     風を呼ぶビル屋上の鯉幟

     仙人掌の花丑三つの居間を染む

     鮑獲り磯笛鳴らぬ海女もゐて

     滝壷や石に座れば石となる

     蛍や魂飛ぶ闇のなまぐさき

     銅鑼鳴るや大雄山の夏木立

     水芭蕉昔を残す水車かな

     河鹿笛岩にふくらむ鳴き袋

     釣り上げし岩魚の腹の黄色かな

     蛍や無口になりし二人連れ

     白玉やタンゴ流るる店の隅

     夏蚕飼ふノコギリ屋根の乱反射

     百合匂ふ関東ローム層の崖

     手合はして裸の太子二歳像

     払ひ腰一本の声梅雨に入る

     花火師の闇も照らさる川供養

     虹くぐる鴎一羽の白さかな

     鳰の巣の卵隠して潜りけり

     火を噴きし海とも見えず走り梅雨

     紫陽花や雑巾がけの寺の朝

     闘牛の土俵ぬかるむ大夕立

     黒帯の組み手あらそひ梅雨に入る

     青大将夏の木陰の大欠伸

     手を上げて鵜を帰らしむ鵜匠かな

     首すじの清しき女神輿かな

     見上ぐる顔照らして花火消えにけり

     木地職の住みし青葉の隠れ里

     鷺舞の羽広げたる涼しさよ

     蓮の葉の水玉落つる鯉の背

     怒り吐く十二神将夏木立

     行々子生徒をのせて渡し舟

     地獄絵の絵解き聞きゐる団扇かな

     禅僧の会釈して過ぐ蝉時雨

     川に入りし犬動かざる大暑かな

     植込みに落ちきし蝉の鳴きはじむ

     山門に我も駆け込む大夕立

     日向葵や背高くなればうなだるる

     鮒寿司や湖北に風の渡る頃

     ほたて貝焼かれて片帆あげにけり

 

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青大将