天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー夏(3/14 )

平成七年 「機関車」

     蝸牛ディズニーランドの灯を背負ひ

     妻ときて薮蚊にくはる沢の音

     木下闇祠もらひし道祖神

     ブラームスの生家真白し風薫る

     寝たきりの床の母にも更衣

     万緑の三四郎池の石に座す

     番台の芸妓鑑札夏来る

     菖蒲湯をありがたがりてのぼせけり

     梅雨空やまぶしき白き靴買はむ

     曲り家に五月雨を聞く遠野かな

     廃校に集ひ新茶の手揉みかな

     汗かきて轆轤回せば土笑ふ

     乳飲み子の三春人形胸涼し

     新涼の隧道出口まぶしかり

     早苗饗や甲賀の里の鉄砲漬

     森姫と名付けしぶなの滴れり

     あぢさゐの青きに肩をたたかれし

     山深き里の闘牛夏来る

     からころと湿生花園の蛙かな

     合鴨の子の群放つ青田かな

     子泣き止む風鈴真夜に鳴り響き

     育てよと水田に放つ錦鯉

     日を恋ひて水面に出でし海月かな

     無防備の畑に熟るるトマトかな

     夕顔の実の覗きけり夜の窓

     禰宜巫女の後に従ふ神輿かな

     西行芭蕉も汲みし清水かな

     打水や板前の下駄高鳴れる

     大谷廟母とふたりのソーダ

     銀閣寺母買ひくれし夏帽子

     百合匂ふ水分神社の石の階

     はるけくも鳥翔りゆく雲の峯

 

平成八年 「プラタナス」          

     鵠沼の五月の黒き浚渫船

     蚊に刺され鴫立庵の投句箱

     腹這ひて初波乗りの沖に出づ

     登りきて蝉の合唱下にあり

     郭公や深き眠りのありさうな

     新緑や乳牛庭に車座に

     水音やみづ木若葉の那須野ゆく

     引潮の礁を覗く箱眼鏡

     螢の闇に黙せる二人かな

     更衣桜田門の警察官

     落石の道路に出でし蜥蜴かな

     蔦茂る横浜地方気象台

     宙を飛ぶ海豚に見えし夏の海

     身をもめる毛虫気をもむ乙女かな

     小説を読みふける巫女蝉時雨

     引潮やいくりの蛸を手探れる

     親の影射せば口開く燕の子

     こぼれたる石榴の花や歓喜天

     夕焼や薬師寺西塔新しき

     緑陰の文士の墓をめぐりけり

     だるまさんがころんだ覇王樹動かざり

     みんみんのここを先途と鳴きにけり

     水煙に舞ふうすものの天女かな

     油照水来ぬ樋の水車小屋

     寄つてゆけと古き民家の夏炉かな

     黙したる花鶏(あとり)の群や遠花火

     明月院はや落書きの今年竹

     石垣の青大将の寝息かな

     釣竿の長きを立てて囮鮎

     マンションの階段に死す油蝉

     抹茶淹れさはにもてなす団扇かな

     幻の滝を探すと言ふ男

     御刀(みはかし)の光匂ふも青葉闇

     月読宮の激しき藪蚊かな

     炎天や薬師寺東塔黒かりき

     昼寝せむ平城宮趾に風渡る

     蝦蟇石や汗かき登る女体山

     酒折宮壽詩(ほぎこと)の暑き石

     雲の峰たづねあぐねし連歌の碑

 

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蝸牛