天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー夏(10/14 )

平成十九年 「日の斑」              

   石垣は野面積みとふ著莪の花

   葦切の声にいらだつ雀かな

   石仏はさとりすますや著莪の花

   黒猫がくるとささやく立葵

    砂浜の足を引き込む青葉潮

    道の辺に猪の皮干す栗の花

    佇めば直ぐに啼き止む行々子

    仏焔の白きはまれり水芭蕉

    河骨に身をのり出だす木橋かな

    丈低き立子の墓やあやめ咲く

     岩穴に寄せて噴き出づ夏の潮

     白絹の富士まなかひに更衣

     三尊の前にふたつの西瓜かな

     あぢさゐや乳房おもたくたもとほる

     舎利殿の闇覗き込む梅雨の傘

     空の青姫あぢさゐの花にあり

     牡丹咲く透谷美那子出会ひの地

     衆目を集め河豚釣る五月かな

     蝉しぐれ三尊五祖の石庭も

     横須賀や薔薇の向ふに潜水艦

     飴切るや風鈴市の参道に

     山頂に真白きドーム梅雨明くる

     岩越えてくる夏潮の白きこと

     藤村のつひの棲み家や風涼し

     炎天の株暴落を目の当たり

     良寛銅像青む夏木立

     夏逝くや長茄子漬に芋焼酎

 

平成二十年 「透きとほる」         

    鳴くほどに身の透きとほる法師蝉

    滝水の丈高ければなまめかし

    飯粒を鳩のつひばむ若葉影

    水張田の中を左右に水郡線

    釣糸の赤き浮子見る山女かな

    落石の音に驚く山女釣り

    手拭に薮蚊を払ふ山路かな

     葉桜の木漏れ陽を踏む甃

     木道を赤子這はしむ花菖蒲

     谷戸の墓地売る人涼む木陰かな

     金網の目をくぐりては梅雨雀

     奉納の砲弾見ゆる茅の輪かな

     虎尾草の尾が石仏の頬に触れ

     病葉や蓮の台(うてな)にちりきたる

     羽ばたきの音の聞こえむ大揚羽

     足速き舟虫家族逃げまどふ

     ゆく雲の奥に白雲梅雨の空

     江ノ電の窓に追突油蝉

     ヤンママのつくりし浴衣一歳児

     産院の奥に寺あり夏木立

     葛餅は咽喉に詰まらず観世音

     サルビアの赤に染まれる雀かな

 

西瓜