天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー夏(11/ 14)

平成二十一年 「花芒」         

    山頂の神の依代楠若葉

    薄闇の子恋の森のほととぎす

    実桜を踏みて無残や極楽寺

    新緑を杖つきのぼる塔ノ沢

    草に寝て空に吸はるる五月かな

    青田中東武鉄道日光線

    足柄の水田吹く風花あふひ

    列なしてうちは太鼓や月見草

    参道に道をしへ出づ大雄山

    この山の水のゆたかさ瀧の音

    大杉の息吹涼しや大雄山

    涼しさは大雄山の息吹とも

    講の碑のあまた古りたり木下闇

    ヨーヨーをつりそこねたる夏まつり

    そのかみの猿橋しのぶ蝉しぐれ

    猿橋や涼しき風の吹き上がる

    雲の峰大観覧車にのけぞりて

    サッカーの子を見守れり炎天下

    油蝉歌碑にとりつき鳴きはじむ

    翡翠のつぶてが曲がる滑川

    沢音の鴫立庵に端居せり

    朝顔のすだれなしたる苫屋かな

    山路きて息ととのふる著莪の花

 

平成二十二年 「運動会」            

    蜘蛛の囲の虫の亡骸日に揺るる

    青竹の根方に群るるほととぎす

    汗かきの茂吉蚊遣火手離せず

    鈴なりの桐の花ちる山路かな

    石仏の横にたかんな顔出せる

    純白の睡蓮に鳴く牛蛙

    尊徳の呉汁を食す楠若葉

    紫陽花を背にうつむける写経かな

    麦の穂の揺るるがうれし畦に立つ

    足元の雲に苗挿す田植かな

    玉くしげ箱根は梅雨の天の霧

    白百合に花粉のよごれありにけり

    渓流の音の山路日傘くる

    さざ波の入江の風にカヌー漕ぐ

    魚跳ねて川面の炎暑しづまりぬ

    まはりこむ裏見の滝のしぶきかな

    空蝉を葉裏にのこし飛び去りぬ

    電車過ぐ夾竹桃をなびかせて

    ひまはりの枯れて吹奏楽の音

 

油蝉