天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー夏(12/ 14)

平成二十三年 「彼岸花」              

    朝顔や藤村旧居の門を入る

    魚跳ねて川面裂きたり炎天下

    夏逝くや帆綱帆柱鳴りやまず

    二歳児のことば愉快や鯉のぼり

    東海のまほろばに満つ新樹光

    夕陽没る山の滝口赤く染め

    潮騒やビーチバレーの夏来る

    うかびきて鯉が口開く杜若

    バス待ちて古志を読みをり時鳥

    鉢植のまこと小さき月見草

    しやうぶ田の泥掻き鳴らす紅たすき

    鳥のみが知る道の辺の桑いちご

    いつの間に顔まくなぎの中にあり

    放射能測りて片瀬海開き

    涼しさや網つくろへる高架下

    湯河原の駅に着くなり蝉しぐれ

    ひまはりに向きて挨拶する子供

    復興の先駈けなして初鰹

    打水の風にふかるる鴫立庵

 

平成二十四年 「盆提灯」           

    土砂崩あるやも知れず花うつぎ

    薔薇の香や文学館の青き屋根

    竹の子の育ちざかりや皮を脱ぐ

    青葉潮砂利をさらへる波の音

    こゑ合せカヌー漕ぎくる入江かな

    さまざまの麗しき名や花菖蒲

    足引きの小夜の中山茶摘み時

    西行のまろき墳墓や夏木立

    梅雨湿り猿の親子の毛繕ひ

    車椅子止めて称ふる花しやうぶ

    潮騒とラジオのこゑに昼寝かな

    梅雨明けの潮風を嗅ぐ海の家

    渓流の音で眠りぬ夏座敷

    うつ伏せに朝顔うかぶ盥かな

    貨車に積むレール幾本雲の峰

    みな出でて田の草を取る小谷戸かな

    少女らは話に夢中牛蛙

    大磯や涼しき松の残りたる

    サーファを放り上げたり土用波

    ミンミンや欅の肌にまぎれをる

 

平成二十五年 「大道芸」          

    何鳥かルルリリと啼く若葉風

    冷奴大山豆腐また旨し

    幻の瀧を冷して飲み干しぬ

    緑陰に弓引き絞る閻魔堂

    紫陽花の下に子雀親を呼び     

    柏槙のねぢれにねぢれ大緑蔭

    鎌倉のやぐら涼しき虚子の墓

    点滴の管につながれ母の夏

 

月見草