天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー秋(1/11)

平成四年 「獅子頭

     初物の梨むく皮の長からず

     骨董の競りの声飛び蓮の実飛ぶ

     指さすを見れば瓢箪青きかな

     虫すだく夜道の二人言葉なし

     病室のベッドかたづき冷まじき

 

平成五年 「原生林」

     稲の波いにしへよりのうねりかな

     谷おほふ葡萄畑の夕陽かな

     秋深し赤牛丘に咆哮す

     包丁の鋼の音の夜寒かな

     渦つくる魚の口見る残暑かな

     黒犬の長き舌出す残暑かな

     白壁の秋蝶夕陽に身じろがず

     竹箒門前秋の影を掃く

 

平成六年 「化野」              

     彼岸花枯れて現はる鬼女の相

     赤牛の人恋ふる秋草千里

     コスモスや自閉の心を野に放て

     月の道己が影追ふ少女かな

     独り身のボジョレ・ヌーボー秋燈下

     激つ瀬に紅葉舞ひくる日射かな

     川魚の紅葉をまとふ眠りかな

     摩周湖の霧人消えし展望台

     首打ちし跡の石碑や紅葉散る

     雲行くや小さく熟るる姫林檎

     新じやがや掘り起こされて寄り添へる

     雲のなか村あり芋の花畑

     天高し葛生の山に化石掘る

     月仰ぐ赤海亀の涙かな

     とんぼうの尻尾のリズム波紋かな

     やみつきとなりし踊りや風の盆

     朝霧のロンドン駅の紅茶かな

     ちちろ虫つひの勤めの丸の内

     子の声に秋の山彦出でにけり

     自閉児の大き声出す花野かな

     杼作りの後継ぎなくて秋の空

     闇の窓こほろぎ我を呼びにけり

     赤とんぼ顔いつぱいの目を拭ふ

     義仲寺は町の残暑の中なりき

     鳥辺野の石の崩るる秋の風

 

瓢箪