天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー秋(9/11)

平成二十二年 「運動会」          

     楽湧き来山のふもとの運動会

     実ざくろの笑ひひろがる梢かな

     干柿の影のつらなる障子かな

     山門の燈籠かげる紅葉かな

     首筋に剃刀当つる冬隣

     漂泊の雲ひとつゆく冬隣

     わが背丈越えて咲きたる紫苑かな

     萩咲きて鬱ふかまりぬ石畳

     鎌倉や作法どほりの松手入

     勤行の木魚の朝や彼岸花

     秋日差たたみ鰯の影うすき

     団栗に幼児思ふ山路かな

     竿の先割って柿とる祖父の丈

     ひたき鳴く溶岩流の古りし森

     朝鳥の食欲そそる梅擬

     千年を四方にかをれり金木犀

     蟷螂が途方にくるる車道かな

     秋鯖の味噌煮つくるや妻の留守

     南天の実にあからむや墓地の顔

     紅葉を映せる池の白き鯉

     秋雨に選仏場のやどりかな

     空井戸に落ちて友待つ秋の暮

     栃の実と灰掻き混ずる皺手かな

     火にくべて胡桃の殻に飯を炊く

     もろこしに仰ぎし三笠山の月

     秋鯖の入れ食ひに釣れ鳶の影

     初島の影くきやかに秋立ちぬ

 

平成二十三年 「彼岸花」              

     彼岸花ひと夜ふた夜に茎伸びて

     鵙啼いてはやなつかしき空の色

     糸瓜忌や二百安打へあと七本

     稲架あまた立ちたる谷戸の水車かな

     おしろいや松のしづくの化粧坂

     里山ののつぺらぼうの案山子かな

     風吹きてゆるるがうれし花芒

     鵙啼くや聞き耳立つる山畑

     一日に二度来てぎんなん拾ひけり

     大銀杏無きを惜しめり七五三

     黒鳥のくちばし赤き秋の暮

     切株の銀杏もみぢとなりにけり

     一億の復興祈願星まつり

     芝居見て祖母の背に寝し月明り

     みちのくの海に手向けむ菊の花

     草叢に下りてキチキチ草になり

     かなかなのかなと鳴き止むクヌギかな

 

紫苑