天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー秋(11/11)

平成二十八年 「延寿の鐘」         

     秋風に延寿の鐘を撞きにけり

     豊作や竹ロケットを打つ秩父

     子供らが案山子を笑ふ畦の道  

     息切れて琵琶の阿弥陀寺もみぢ狩 

     伊勢志摩の真珠をおもふ今日の月

 

平成二十九年 「古希の春」

     カーテンに猫がとびつく秋の風   

     米ぶくろ抱へて急ぐ秋の雨

     観賞にたへて糸瓜の垂れさがる

     差し交す紅葉の木立化粧坂  

     恐竜の絶滅おもふ月の痣

     七夕ややすらかな死もねがひけり 

     秋彼岸龍が水吐く手水鉢  

 

平成三十年 「円位堂」

     こゑ遠きつくつく法師円位堂

     大山を望みてはるか稲架の朝

     銀杏を炒る音高し鶴ケ丘 

     息切れて座る山路のもみぢかな

     波の間に和賀江島跡月の影

     原爆忌いまだ原爆手放せず 

     台風も火星も大接近の空  

     老いたれば顔が気になる曼殊沙華 

     柿熟るる木の下蔭に駐車せり 

     地に垂れてとる人もなき熟柿かな 

 

平成三十一年(令和元年) 「からす瓜」

     はるかなる夕陽手前のからす瓜

     ひさかきのはるか上なる銀杏かな

     窓外に干し柿を見る湯宿かな

     唐土仲麻呂しのぶ望の月

 

令和二年 「日脚」

     ふたつ垂れひとつ落ちたり烏瓜

     人類の足跡のこる望の月

     包装紙はみ出て垂るる葡萄かな  

 

令和三年 「初茜」 

     狗尾草や廃車のめぐりとり囲む 

     道の辺に思ひ出したり杜鵑草

     秋風の別れの声か楠の空

     月蝕は赤黒かりき望の月

 

狗尾草