天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー冬(1/9)

平成四年 「獅子頭

     碧き目の流鏑馬の射手疾駆せり

     焼き餅をぶちたたかつしやい囲炉裏端

     酒買ひて夕陽浴びれば百舌鳥の声

     山覆ふ雪あり山の力こぶ

 

平成五年 「原生林」

     寒雲の燃えてなにやら力湧く

     銃一声野兎かけのぼる斜面かな

     自転車の白菜一つ揺られゆく

     入院の日を知らせくる冬の空

     凍てつくを青アセチレン鉄を断つ

     蓮枯れて鴨の航跡あらたなる      

     付き添へば点滴の音夜半の冬

     風邪の窓ひと日の色の移ろひぬ

     熱き飯大根おろしかけて食ふ

     一畳の茶席は冬の密議かな

     葱きざむ男手の朝炊飯器

     日時計や明石の浜の冬の鯛

     退院の妻を迎へて小正月

     ブータンに鶴渡りきて人踊る

     粉雪の降り初む空の暗すぎる

     なにゆえにかくあをきうみ都鳥

     原生林少し残りて狸の子

     鴨の子の生れて値札付けられし

 

平成六年 「化野」              

     荒波やおでん屋台を囲みをり

     ふくろふの目つむりて聞く木々の声

     手鞠麩の浮かぶすましも屠蘇の膳

     ぐつぐつと鰤の頭と聖護院

     飛ぶ鳥の首の長きは春を恋ふ

     長崎のカステイラ食ふこたつかな

     日曜の日向に障子洗ひをり

     松が枝にゆさと降りくる寒烏

     方丈の畳無人の雪明り

     山茶花や垣根にのぞく犬の顔

     眼帯の女電車に雪明り

     時雨くる湯宿の窓に日本海

     鶏あそぶ日溜りの土小正月

     落葉する波郷の墓は黒かった

     わが町は影富士の中初飛行

     初雪や都電の駅の鬼子母神

     落武者の郷や障子の雪明り

     雪踏みて命の音を思ひけり

     雪山の麓に鉄路消えてをり

     樹氷林中に祖父母も父母も

 

アセチレン