天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー冬(7/9)

平成二十年 「透きとほる」             

     色うすき返り花咲く山の墓地

     煩悩をかたじけなしとお茶の花

     咲き群れて連弾といふ冬薔薇

     倒木の枯葉になづむ山路かな

     遠山の粧ひを見る木の間かな

     山の端にけむり一筋笹子鳴く

     立冬の肩すぼめ読む文庫本

     築山は不二をかたどる石蕗の花

     雨粒をやどす白絹冬さうび

     戸塚宿上方見附笹子鳴く

     歳晩の試食して買ふ目刺かな

     足音を聞けば浮び来寒の鯉

     松籟の山路かけゆく落葉かな

     山茶花や年内閉門極楽寺

     吾妻山朝日ににほふ水仙

     水仙の庭に石臼うづくまる

     白雲が灰色に見ゆ富士の雪

     霜柱墓のあるじを驚かす

     湯たんぽの皺なつかしき日向かな

     本殿は雲の奥なり神の旅

     夢に泣く妻をゆさぶる夜長かな

     葺替を終へて春待つ鴫立庵

     宝暦の噴火のくぼみ雪あかり

     朝光やふくら雀の胸白き

     冬潮の毛羽立つかなた不二の峰

     自刃せし矢倉の闇や笹子鳴く

     浮寝鳥真水潮水こだはらぬ

     水仙のこぼせる朝の光かな

     粉雪にいささむら竹鳴りにけり

     巫女が売る破魔矢鏑矢楠の杜

     探梅の径に人寄せ小鳥笛

 

平成二十一年 「花芒」             

     弟にライダーの面七五三

     竹林に朝日射しくる焚火かな

     小春日の卵はこび来円覚寺

     目の澄める子を褒む老の小春かな

     断崖のはなやぐところ石蕗の花

     りんご飴口にあまれる七五三

     望郷の吊橋わたる師走かな

     落葉踏む石段先の奥の院

     水行の白衣湯気たつ師走かな

     総持寺をめぐる回廊煤払

     だみ声のカケスもをりて山眠る

     竹林のきしみに鳴ける笹子かな

     道をゆく蟹かと思ふ枯葉かな

     浄明寺二丁目六番冬薔薇

     水音は筧よりくる落椿

     寒鰤の背鰭見えたる生簀かな

 

平成二十二年 「運動会」         

     門前の日曜画家や石蕗の花

     うち寄する波の白刃大晦日

     息つめて笹子の姿探しけり

     足裏に落葉やさしき女坂

     集落を守る間垣や虎落笛

     冬麗の樟高き空足湯せり

     笹鳴の山路に日の斑つらなれり

     魚跳ねて跳ねて朝日の冬の海

     黒潮の潮目きはだつ師走かな

     藁打つて長靴編むや囲炉裏端

     雪掻くや午前三時のブルドーザ

     水仙の花咲きおもる岬かな

     牛飼が雪解け道に牛を追ふ

     腰落し糞する猫の寒さかな

     托鉢の僧息白く立ち尽くす

     雪道を素足の草鞋托鉢す

     ふためきて藪に飛び込む笹子かな

     文学館の庭片隅に龍の玉

     雪ふれば祖母が迎へし峠かな

     傘さして雪の峠に祖母が待つ

 

目刺