動作を詠む(1/3)
動作の主体となる體の部位によって言葉は異なってくる。今回は、足(脚)手(腕)の場合をみてみよう。
歩む
おし黙し舗道の灯かげに歩みつつこの黒き群は何を思へる
臼井大翼
いくほどをわれら歩みしあをあをと潮騒光る崖の上の道
古泉千樫
たはむれに母を背負ひてそのあまり軽きに泣きて三歩あゆまず
監房の外はあかるき陽が照りて、人等歩めり、ものを言いつつ。
渡辺順三
焼あとの運河のほとり歩むときいくばくの理想われを虐(さいな)む
前田 透
長き材の重心をいま肩にとり歩みゆくさま電車より見ゆ
田谷 鋭
走る
とぶ鳥もけもののごとく草潜(くぐ)りはしるときあり春のをはりは
前川佐美雄
すさまじく一頭走れば明かるめる山上の霧にあと追ふ馬群(ばぐん)
窪田章一郎
照りかげりさだめなく雲は野を奔りそのはてに暗くこもるいかづち
ずぶ濡れのラガー奔るを見おろせり未来にむけるものみな走る
ベトナムの戦乱の中に育ちしかあはれ素ばやく走る少年
ハイパントあげ走りゆく吾の前青きジャージーの敵いるばかり
坐る
めづらしく子供ら寝ねてわがそばに妻が坐れば心はあやし
柴生田 稔
葉牡丹(はぼたん)を置き白き女の坐りゐる窓ありにけり夜ごろは寒く
佐藤佐太郎